夏に降る雪 1
カチリ。ぼんやりと踏み出した右足から感触が伝わる。二、三センチほど積もった雪の下で金属が眠っているようだ。
銃器類か鉄クズか、何にせよ自分には必要ないものだろう。銃器類は何かを殺すためにあるが、それはその何かが命を持っていることが前提となっている。この雪が降り始めて十年経った今、果たしてどれだけ殺すことができるものが存在するのだろうか。
そんなことを考えながらも結局ナナオは雪を除けてみることにした。
彼女にとって時間は無限に近く、彼の役割(そんなものがあったとして)はその無限を浪費し続けそれを無に変える事だったから。
結論からを申し上げますならば。それは単なる鉄クズだった。なるほどこれがいわゆるバールのようなもの、なのだろう。殺人事件とかによくでてくるあれだ。
ナナオは少しほっとして笑いそれを放り投げた。音もなくそれは雪に埋もれていく。雪が降りかかりバールのようなものの形をしたくぼみは、即座に何もない雪原に姿を変えた。
自分に必要がないとはいえ、何かを殺すことしか能の無いものは怖い。
少しスリルのある暇つぶしを楽しんだナナオは満足してまた右足をぼんやりと踏み出した。